えすおーの・・・weblog

※毎日更新は無理・・・

レディメイド -2018ver.-


きっかけ→明転

 

 部屋に妹がいて、荷物をまとめている。

 そこにバスタオルを巻いた姉が脅かそうと静かにドアを開けて入って。

 

姉「わ!」

妹「(それを見て)・・・」

 

 二人、沈黙

 

姉「・・・びっくりした?」

妹「・・・(首をふる)」

姉「つまんね」

妹「酒臭い」

姉「イエス!」

妹「あーあ、あたしも3年後こうなっちゃうんかなー」

姉「あたしのDNAが入ってる以上、なっちゃうよね」

妹「正確には、父さんのDNAやん」

姉「うるせ!あんたもまっぱになりやがれ!!」

 

 姉、妹の服を脱がそうとする

 妹、姉に抵抗する。

 やりあうが、妹が勝利

 

妹「はい。負け犬さん」

姉「強くなったのぉ(一気に態度かえて)」

妹「私のこと何歳だと思ってんの?」

姉「この前まで私に落とされてたくせに」

妹「いつの話してんの」

姉「そんな小娘が東京に行くだなんてね

妹「成人式には戻ってくるから」

姉「盆正月くらいには帰んなさいよ」

妹「わかんない。」

姉「は?」

妹「サークルとかバイトとかもあるかもしんないし」

姉「はい、ふるさとを捨てます宣言」

妹「違う!」

姉「同じだよー、なんでこっちにもたくさんあるのに、東京の学校になんか行くのー」

妹「受かったんだから文句言わないでよ。それも明日からだってのに」

姉「都合よくふるさとを使うんじゃないよ」

妹「あっちの成人式出ても、誰も友達いないじゃん」

姉「そういうの覚悟で出てくわけでしょ?だったら東京で成人式あげなさい。住民登録もするわけなんだから」

妹「友達と約束したもん。こっちで振り袖着るって」

姉「なに勝手にやってんの?」

妹「今更なに」

姉「今更っていわれても言うけど、あんたの東京行きを完全に認めた訳じゃないからね」

妹「?」

姉「あたしだって東京行きたい」

妹「・・・」

姉「でもね、あたしは長女だっていう自覚があったの。お父さんお母さんも、家も、店も守ん なきゃっていう。だからここにいるの。」

妹「思ってる。朝、お姉ちゃんが市場に早めにいくときとか、悪いなーって思ってる」

姉「だったら一度くらいは市場に一緒にきたらいいじゃない」

妹「朝苦手だもん」

姉「あんたの勝手じゃん、そこ体のせいにするー?」

妹「お姉ちゃんはばりばり朝からサラダ食べちゃうもんね」

姉「馬鹿にされてる気分」

妹「こりゃ失敬」

姉「もうあったまきた。よし決めた!」

妹「?」

姉「あたしも明日、東京へ行く!」

妹「え?」

姉「よし!」

 姉、携帯を取り出し

姉「(電話)あ、もしもし、あの、明日の新幹線、始発で席をとりたいんですけど」

妹「ちょっと!」

姉「いいから!(電話)はい?電話じゃ指定席とれない?はあ、自由席で!」

妹「お姉ちゃん?」

姉「(電話)自由席もとれない!?じゃあ、なんならとれるっつうんですか!デッキ?トイ  レ?運転席?」

妹「ちょっと!」

姉「(電話)東京に行かせろ!!!!!」

 妹、姉の携帯を奪う

妹「(電話)な、なんでもありません!」

姉「ちょっと!」

妹「失礼しました!」

 妹、電話を切る。

姉「なにすんのよ!」

妹「馬鹿じゃないの?!

姉「馬鹿じゃねえわ!」

妹「そういうとこ!嫌いなの」

姉「!」

妹「新幹線の切符なんて電話じゃ取れない!」

姉「今いつよ?21世紀だよ?電話でできないことなんかない!」

妹「世間知らず!」

姉「なんだと!」

妹「電話でもできることとできないことはあんの!そういうのもわかんないで、のほほんと暮  らしてるから嫌なの!」

姉「じゃあ、なに?あたしがいやだから、家出るの?」

妹「お姉ちゃんみたいに世間知らずにならないように、日本を、世界を見られるようになりた いから、出て行くの」

姉「は~!あそー?」

妹「なに」

姉「東京に出たからって、なんもないよ?」

妹「は」

姉「テレビ見てごらんなさいよ!毎日、警察に誰かしら捕まってるじゃないの!」

妹「警視庁24時の見過ぎ・・・」

姉「(鼻をつまんで)あー、やってらんないよ。おれのどこがわるいってんだよ!」

 妹、姉をつかんで追い出しながら

妹「はいはい、話しは今度。(私を)寝かして」

姉「いやだーーーーーーー」

 姉、力で戻る

妹「始発なの!寝かしてよ!」

姉「ねむらせなーい」

妹「いやだーーーーーーー」

姉「明日あんたは始発に乗れない。」

妹「はあ?」

姉「あたしがあんたを東京に行かせないから」

妹「何を今更」

姉「お姉ちゃんの力を甘く見るんじゃなーい」

 姉、妹を押し倒すと、首を締め始める

 苦しむ妹。

妹「な・・・んで・・・」

姉「(無言で)」

 妹、力づくで、突き放す

 荒い息のふたり

妹「・・・ちょっとショックなんだけど・・・」

姉「・・・」

妹「お姉ちゃん、今、本気で、あたしの首しめた」

姉「・・・」

妹「どういうこと?」

姉「・・・」

妹「どういうこと!」

姉「・・・」

妹「ねえ!」

姉「あんたを東京に行かせたくない。」

妹「・・・」

姉「ただ、あんたを行かせたくない。それだけ」

 姉、ずるずると、はいながら、部屋を後にしようとする

妹「だったら・・・だったら、あたしの受験で反対してよ・・・」

姉「は?」

妹「は」

姉「できるわけないじゃん。それって理由になんないし」

妹「・・・」

姉「あたしは高校まででペン持つのさえ嫌んなってたから。またさらに4年?浪人でもしたら もっと?だぶったらもっと?そんなの絶対嫌だったから。それをあんたはやってのけようっ てわけだよね?んなの反対できるわけないじゃん!」

妹「・・・」

姉「だからあんたがお父さんとお母さんの前で、東京行きます!って時、あたし、惚けてた。   あ、そーって。」

妹「・・・」

姉「そう・・・ずーっと・・・惚けてたわ」

妹「だからそれを今さら」

姉「今更なんだよ」

妹「え」

姉「今更だから、あー、・・・こう、なんっつうの?邪魔したくなっちゃうわけ」

妹「ねえ、それってさ・・・あたしのことが・・・好きだったり?」

姉「は!」

妹「Like?Love?」

 

 その瞬間、黙って、妹を抱きしめる姉

 

妹「・・・これって・・・」

姉「・・・」

妹「ラ・・・」

姉「ライク」

妹「だよね」

姉「うん」

姉「はー、すっきりしたわ。こう、モヤモヤが、抜けたよね」

妹「モヤモヤって何よ」

姉「てことで、あんた残りなさい」

妹「は?」

姉「残んなさい」

妹「わけわかんない!」

 

 妹、勢いで、力づくで、姉を追い出す

 舞台、妹ひとりになる。

 

姉「(ここから声のみ)ねえ」

妹「おやすみ」

姉「明日もこれやろう」

妹「一人でやってて」

姉「寂しい!」

妹「おやすみ!」

 寝ようとした瞬間

姉「(舞台イン)寝かーせーない!」

妹「もうー」

姉「議長!緊急動議をとりつけます!」

妹「は?」

姉「ただいまより、姉と妹、逆にします」

妹「!」

姉「賛成のもの、起立!」

 姉、起立

姉「よって、本案は可決されました」

妹「は?」

姉「じゃ、明日はあたしが東京に行くから、寝る。おやすみ、お姉ちゃん」

妹「うるさい!」

姉「!」

妹「なんで・・・」

姉「・・・」

妹「ねえ・・・ねえ!」

姉「わかんない」

妹「え・・・」

姉「わかんないから・・・わかんないの・・・」

妹「・・・」

姉「・・・なんだろうね、姉妹って・・・」

妹「・・・」

姉「あんたが生まれるときからずっと見てた。

  お母さんのお腹蹴ってるときも。初めてお風呂いれてあげたのも、初めて歩いたの見たの  も、靴をはかせてあげたのも、あたし。」

妹「・・・」

姉「あんたのいない明日からって何?今日ずっと考えてたの。でも考えたくもなかった。家の  どこかにあんたがいるような気がして。呼んだら、なに?って来そうな気がして。」

妹「・・・」

姉「わかる?あんた?」

妹「・・・」

姉「東京の話してるあんた見て・・・憎たらしかった。

 わかる?あんた?わかる?この気持ち」

妹「・・・」

姉「わかる?」

妹「お姉ちゃん」

姉「答えて!」

妹「お姉ちゃん」

姉「ねえ!」

妹「私もわからない」

姉「!」

妹「はっきり言うね。わからない」

姉「・・・」

妹「そして、お姉ちゃん、もうその答え、お姉ちゃん、わかってるよ」

姉「・・・」

妹「姉妹って何っていったよね?さっき。」

姉「・・・」

妹「そう、姉妹。あたしたち、姉妹だから。」

姉「・・・」

妹「浮かれてるあたし見て、憎らしくなる。でも、小さい頃からのあたしを見てる。それが友 達でもない、ましてや、親子でもない、姉妹なんだよ」

姉「・・・」

妹「ひとりで寂しがらないでよ・・・あたしにも・・・あたしにも寂しがらせてよ!」

姉「だってあんた」

妹「浮かれてたように見せたの、あれ、うそ・・」

姉「・・・」

妹「新しい生活、うれしいよ。なにが起こるかわかんないもん、新しい場所、新しい部屋、新 しい友達、新しい先生。でもそこに・・・お姉ちゃん・・・いない・・・」

姉「・・・」

妹「いないもん・・・それって、あたしの今までからすると・・・あり得ないんだよね。そう いうの・・・」

姉「あんた・・・」

妹「だから、同じだよ。そういうのが・・・繋がってるのが・・・姉妹だし、あたしたちなん じゃない・・・」

 

 姉、ゆっくり近寄って、

 そして妹も近寄って抱き合う。

 

 遠くから小鳥のさえずりが聞こえる。

 朝陽が差し込み始める。ゆっくりと。

 

 抱き合っていたふたり

 妹のほうからゆっくり離れる

 

妹「そろそろ準備しなきゃ。お風呂も入んなきゃだし」

 姉、ゆっくりと床へ横たわる

妹「ん?」

 動かない姉

妹「お姉ちゃん?」

 動かない

妹「お、お姉ちゃん?お姉ちゃん?」

 揺り動かす妹

 そのとき、姉から、いびきが聞こえる。

 妹、それを聞いて、奥へ。

 毛布を姉にそっとかけてあげる。

 そして、はける。

 

いびきをかいている姉

 

だが

 

ゆっくり目を開ける。

 

そして、妹のはけた方を見つめて

 

姉「サンキュー・・・・」

 

姉、毛布をたたんで、きれいにおく。

そしてはける。

 

舞台には毛布がある。

 

END